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名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)39号 判決 1997年6月26日

愛知県岡崎市大平町字建石一一番地二

原告

吉野康治

愛知県岡崎市明大寺本町一丁目四六番地

被告

岡崎税務署長 神野博行

右指定代理人

山本衞

堀悟

堀田輝

戸苅敏

相良修

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求

一  被告が平成七年二月一三日付でした原告の平成元年分所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定を取り消す。

二  被告が平成七年三月一五日付で原告に対してした督促を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実など

1  愛知県収用委員会は、平成元年一〇月一七日、岡崎都市計画公園事業九・六・一岡崎中央総合公園(以下「本件事業」という。)に係る土地収用裁決事件において、<1>原告の所有する別紙一記載の土地(以下「本件土地」という。)を収用する、<2>原告に対する権利取得に伴う損失の補償額は四三三四万七三一三円とする、<3>権利取得の時期は、平成元年一一月二七日とする、との内容の裁決(以下「本件収用裁決」という。)をした(甲二)。

2  被告は、原告に対し、平成七年二月一三日付平成元年分所得税の決定、加算税の賦課決定通知書により、原告の平成元年分の所得税額、無申告加算税額について、別紙二記載のとおり、それぞれ七五八万七四〇〇円、一一三万七〇〇〇円とし、納付期限を平成七年三月一三日とする所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定をした(甲一。以下、右所得税の決定を「本件決定処分」と、右無申告加算税賦課決定を「本件賦課決定」という。)。

3  被告は、原告に対し、平成七年三月一五日付督促状により、原告の平成元年申告所得税七五八万七四〇〇円及びこれに対する無申告加算税一一三万七〇〇〇円の納付を督促した(甲三。以下「本件督促処分」という。)。

4  本件決定処分、本件賦課決定に対する被告の異議決定及び国税不服審判所がした審査裁決の経緯は、別紙三記載のとおりである(甲六、甲九、甲一六)。

5  本件督促処分に対する被告の異議決定及び国税不服審判所がした審査裁決の経緯は、以下のとおりである(甲七、甲一〇、甲一七)。

<1> 異議申立て 平成七年三月二〇日

<2> 異議決定 同年六月一四日 棄却

<3> 審査請求 同年七月 三日

<4> 審査裁決 平成八年五月二三日 棄却

二  争点

1  争点その1(本件収用裁決に係る補償金の原告の平成元年分所得への算入の可否及び右裁決の無効)について

(原告の主張)

(一) 本件収用裁決は、都市計画法、土地収用法などに違反した不当な様々な不利益を原告に加え、あるいは手続上の瑕疵も認められ、無効である。

(二) 原告は、それゆえに、本件収用裁決に基づく損失補償金の受領を拒否している。原告は右損失補償金を未だ得ていない。

(三) 以上により、本件決定処分は、本件収用裁決に係る損失補償金が原告の平成元年分分離長期譲渡所得に当たるとしてはならないところ、右所得に当たるとして原告の所得を過大に認定したものであるから違法である。

(被告の主張)

(一) 本件決定処分

(1) 総所得金額 八六万七六〇〇円

原告の平成元年分の総所得金額は、次の<1>及び<2>の合計額である。

<1> 農業所得の金額 一七万一六〇〇円

<2> 不動産所得の金額 六九万六〇〇〇円

(2) 分離長期譲渡所得金額 四一一七万九九四八円

原告の平成元年分の分離長期譲渡所得金額は、次の<1>の金額から<2>の金額を差し引いた金額である。

<1> 収入金額 四三三四万七三一三円

これは、原告所有の本件土地が本件事業の用地として本件収用裁決により収用されたことによる、権利取得に伴う損失の補償の金額である。

<2> 必要経費 二一六万七三六五円

これは、租税特別措置法(平成三年法律第一六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条の五の規定に基づいて算出した<1>の収入金額の五パーセントに相当する概算取得費控除の額である。

(3) 所得控除の額 三一一万〇二〇〇円

社会保険料控除の額二六万〇二〇〇円、生命保険料控除の額五万円、障害者控除の額七〇万円、配偶者控除の額三五万円、扶養控除の額一四〇万円及び基礎控除の額三五万円を合計した所得控除額は三一一万〇二〇〇円となる。

(4) 課税される総所得金額 〇円

前記(1)の総所得金額から前記(3)の所得控除の額を控除した額は、マイナス二二四万二六〇〇円である。したがって、課税される総所得金額は〇円である。

なお、控除不足となった二二四万二六〇〇円は、後記(5)において分離長期譲渡所得金額から控除する

(5) 課税される分離長期譲渡所得金額 三七九三万七〇〇〇円

課税される分離長期譲渡所得金額は、前記(2)の分離長期譲渡所得金額から、措置法三一条四項により特別控除額一〇〇万円を控除し、さらに(4)の所得控除の額の控除不足額二二四万二六〇〇円を控除した金額について、国税通則法一一八条一項の規定により、一〇〇〇円未満の端数を切捨てた三七九三万七〇〇〇円である。

(6) 納付すべき税額 七五八万七四〇〇円

これは、前記(5)の金額に措置法三一条一項所定の税率二〇パーセントを乗じて算出した額である。

(二) 本件賦課決定

(1) 原告は、平成元年分所得税の法定申告期限である平成二年三月一五日までに平成元年分所得税の確定申告書を提出しなかった。

(2) 無申告加算税額 一一三万七〇〇〇円

前記(一)、(6)の所得税額七五八万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満切捨て)に国税通則法六六条一項所定の割合一五パーセントを乗じて算出した額である。

(三) 原告の主張に対する反論

(1) 本件収用裁決は、公定力を有する行政処分であって、権限のある機関によって取り消されるまでは有効であるところ、本件収用裁決は、未だ取り消されていない。被収用者が収用裁決の効力を争い、これに対し取消訴訟を提起したとしても、これにより当該裁決の効果に何らの変動も生じない。

(2) 岡崎市は、本件収用裁決に基づく損失補償金四三三四万七三一三円のうち、原告の債権者である岡崎市東部農業協同組合に対し、平成元年一一月二一日、債権差押命令補償金一五〇〇万円を支払い、残額二八三四万七三一三円は、原告が受領を拒否したので、同年一一月二四日、供託した。

2  争点その2(本件決定処分と本件賦課決定の違法により本件督促処分も違法になるか)について

(原告の主張)

(一) 本件決定処分は、争点その1において主張したところにより違法であるから、これを前提とする本件賦課決定、本件督促処分のいずれも違法である。

(二) したがって、本件決定処分、本件賦課決定及び本件督促処分のいずれも取消しを免れない。

(被告の主張)

原告の主張は全て争う。

3  争点3(原告の平成元年分の納付すべき税額)について

(被告の主張)

原告の平成元年分の納付すべき税額は、争点その1について、被告の主張(一)(二)の各記載と同じであるから、これを引用する。

(原告の主張)

(一) 被告の主張(一)、(2)、<1>の収入金額の事実は争う。

(二) 原告は、被告の主張(一)、(1)の総所得金額、同(3)の所得控除の額、同(4)の課税される総所得金額の各事実を明らかに争わない。

第三争点に対する判断

一  争点その1(本件収用裁決に係る補償金の原告の平成元年分所得への算入の可否及び右裁決の無効)について

1  ある年度分の所得金額の計算上、収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額である(所得税法三六条一項)。

土地収用法に基づく権利取得の裁決があったときには、裁決により定められた権利取得の時期において、起業者が当該土地又は物件の所有権を取得し、当該物件に関するその他の権利は消滅する。起業者は、右権利取得の時期までに被収用者に係る補償金を払い渡す義務を負い、被収用者は、右権利取得の時期において、右補償金に対する権利を行使することができるに至る。

収用裁決の効果は、権限のある機関によって取り消されるまでは公定力を有し、国家機関との関係においても適法とされる。そこで、被収用者は、裁決の定める権利取得の時期に、権利取得裁決にかかる補償金について、収入すべき権利の確定した金額を取得する。

したがって、原告は、前記第二、一、1において認定したとおり、本件収用裁決の定める権利取得の時期である平成元年一一月二七日、権利取得に伴う損失補償金四三三四万七三一三円を、その収入する権利が確定したものとして取得したのであるから、右金額は同人の平成元年度の所得に算入すべきである。

2  原告は、本件収用裁決が違法、無効であると主張するが、その違法が重大かつ明白であることを主張しているとは認められない。また、本件全証拠を精査しても、右裁決に重大かつ明白な違法があることを窺知する証拠は見出し難い。したがって、原告の右主張は採用できない。

3  本件収用裁決に係る補償金は、前記第三、一、1において説示したとおり、本件収用裁決で定められた権利取得の時期に収入する権利が確定したのであるから、原告の所得である。この理は、仮に原告が右補償金の受領を拒んだため補償金が供託されている場合においても変わりはない。したがって、原告の右主張は、それ自体失当である。

二  争点その2(本件決定処分と本件賦課決定の違法により本件督促処分も違法になるか)について

課税処分と滞納処分とは、その目的及び効果を異にする別個独立の行政処分であり、決定処分、賦課決定の適法、違法により直ちに滞納処分がその効力を左右されるものではない。したがって、本件督促処分に関する原告の右主張は、それ自体失当である。

三  争点その3(原告の平成元年分の納付すべき税額)について

1  原告は、前記第二、二、1被告の主張(一)、(1)の総所得金額及び同(3)の所得控除の額、同(4)の課税される総所得金額のそれぞれについて、いずれも明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

右事実のほかに、前記第三、一、1、3において認定、説示したところを併せ考察すると、原告は、平成元年一一月二七日、本件収用裁決に基づき、損失補償金四三三四万七三一三円を取得したのであるから、原告の平成元年分の納付すべき所得金額は、措置法などの関係法条を適用すると、次のとおりであると認められる。

<1> 総所得金額 八六万七六〇〇円

<2> 分離長期譲渡所得金額 四一一七万九九四八円

<3> 所得控除の額 三一一万〇二〇〇円

<4> 課税される総所得金額 〇円

<5> 課税される分離長期譲渡所得金額 三七九三万七〇〇〇円

<6> 納付すべき税額 七五八万七四〇〇円

2  原告は、前記第二、二、1被告の主張、(二)、(1)の事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

したがって、原告の平成元年分所得税に係る無申告加算税額は、前記第三、三、1、<6>の所得税額七五八万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満切捨て)に、国税通則法六六条一項所定の割合一五パーセントを乗じて算定した一一三万七〇〇〇円である。

3  以上の次第であるから、本件決定処分、本件賦課決定処分及び本件督促処分はいずれも適法である。

第四結論

よって、原告の本訴各請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲田龍樹 裁判官 森脇江津子 裁判官原敏雄は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 稲田龍樹)

別紙一

<省略>

別紙二

<省略>

別紙三

課税の経緯表

<省略>

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